2016年4月14日熊本・阿蘇地域を襲った「熊本大地震」は、震度7を記録し、東日本大地震に次ぐ大きな被害を出しました。損害保険協会の支払保険金は、1810億円に達し、東日本大震災の保険金1兆2654億円に次ぐものでした。内閣府の調査を要約し各事業経営者にご案内します。
1.「被災地域」の定義
最大震度7を観測した2回の地震のうち、震度6弱以上を記録した10市、11町、3村(ただし郡部においては、複数の町村が震度6弱以上を記録した郡部を主に選定)。具体的には、熊本市(中央区、東区、西区、南区、北区)、八代市、玉名市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、阿蘇市、天草市、合志市、下益城郡美里町、菊池郡(大津町、菊陽町)阿蘇郡(南小国町、小国町、産山村、高森町、西原村、南阿蘇村)上益城郡(御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、山都町)。なお、データ上の制約から、熊本県のみの被災地域を対象として調査を行っている。
2.企業アンケート結果
(1)企業の被災状況
企業調査に基づく被災状況は、被災地域の企業のうち、なんらかの被害(直接、間接)を受けた企業は約80%、取引のある企業で、なんらかの被害を受けた企業は約46%であった。
被害の状況(被災地域の企業)
被害の状況(取引のある企業)
被災地域の企業のうち、なんらかの被害を受けた企業に地震後の営業再開時期を聞いたところ、約8割の企業が営業を停止していないか、地震後1週間以内に営業を再開していると答えている。一方で、深刻な被害を受けており現在も営業を再開できていないと回答する企業もあった。
被災地域の企業のうち、何らかの被害を受けた企業の営業再開の時期売上高について聞いたところ、被災地域の企業の平成28 年4月~6月(第1四半期)の売上高は、被害のあった企業の6割以上が対前年比で減少したと答えており、3割近くは20%以上の減少となっている。一方、被害のなかった企業は、7割以上が対前年比10%以内の増減となっている。
また、取引のある企業の平成28 年4月~6月の売上高は、熊本地震による被害ありとした企業の約4割が、売上高の減少があったと答えている。
全被災地域の企業のうち、なんらかの被害を受けた企業に地震後の営業再開時期を聞いたところ、約8割の企業が営業を停止していないか、地震後1週間以内に営業を再開していると答えている。一方で、深刻な被害を受けており現在も営業を再開できていないと回答する企業もあった。
(2)被災地域の企業のうち、何らかの被害を受けた企業の営業再開の時期
売上高について聞いたところ、被災地域の企業の平成28 年4月~6月(第1四半期)の売上高は、被害のあった企業の6割以上が対前年比で減少したと答えており、3割近くは20%以上の減少となっている。一方、被害のなかった企業は、7割以上が対前年比10%以内の増減となっている。
また、取引のある企業の平成28 年4月~6月の売上高は、熊本地震による被害ありとした企業の約4割が、売上高の減少があったと答えている。
被害を受けた企業に対し、熊本地震の際に有効であった取組について聞いたところ、備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、災害担当責任者の決定、安否確認や相互連絡のための電子システム、火災・地震保険等への加入、避難訓練の開始・見直しを、回答のあった企業のうち3割以上が役に立ったと答えている)。
※グラフのN は、被害を受けた企業のうち、有効な回答のあった企業となる地震の際に有効であった取組について
① 備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、買増し
② 災害対応担当責任者の決定、災害対応チーム創設
③ 安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入
④ 火災・地震保険(地震拡張担保特約・利益保険等)加入
⑤ 避難訓練の開始・見直し所有資産(社屋・機械設備等)の点検
⑥ 所有資産の耐震・免震工事・耐震固定非常用発電機の購入
⑦ 重要な要素(経営資源)の把握
⑧ 防災用の無線機や災害時優先電話(衛星電話等)導入
⑨ 内部留保(現金等保管・預貯金等)の増大
⑩ BCPの見直し
⑪ 代替仕入先の確保協定(災害発生時の代替供給や資金援助等)締結
⑫ 防災関連セミナーの定期受講・防災関連資格(防災士等)取得の推奨また本社機能・営業所等の代替施設・建屋の確保または準備
⑬ クロストレーニング(代替要員の事前育成)
⑭ 生産設備の代替施設・建屋の確保または準備
⑮ ISO等のBCP認定取得
⑯ 代替販売先の開拓・情報収集等
⑰ 店舗・工場等の他県または海外への移転
⑱ 在庫増に備えた倉庫や土地等の購入・借用
⑲ 国土強靭化貢献団体認証の取得
(3)行いたいが実施できていない取組
被害を受けた企業に、行いたいが実施できていないものについて聞いた。回答のあった企業については多くの項目で、今後取り組みたいと答えているが、特にBCPの見直し、クロストレーニング、国土強靭化貢献団体認証の取得、ISO等のBCP認定取得等、態勢の見直しに関する項目をあげる企業が多かった。
今後取り組みたいこと
① BCPの見直し
② クロストレーニング(代替要員の事前育成)
③ 国土強靭化貢献団体認証の取得
④ ISO等のBCP認定取得
⑤ 安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入
⑥ 防災用の無線機や災害時優先電話(衛星電話等)導入
⑦ 防災関連セミナーの定期受講・防災関連資格(防災士等)
⑧ 取得の推奨または社員への補助制度の創設
⑨ 生産設備の代替施設・建屋の確保または準備
⑩ 本社機能・営業所等の代替施設・建屋の確保または準備
⑪ 在庫増に備えた倉庫や土地等の購入・借用
⑫ 非常用発電機の購入
⑬ 協定(災害発生時の代替供給や資金援助等)締結
⑭ 店舗・工場等の他県または海外への移転
⑮ 避難訓練の開始・見直し
⑯ 災害対応担当責任者の決定、災害対応チーム創設
⑰ 所有資産の耐震・免震工事・耐震固定
⑱ 代替仕入先の確保
⑲ 代替販売先の開拓・情報収集等
⑳ 取引の一時停止
㉑ 備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、買増し期日猶予(納品日延期)
㉒ 内部留保(現金等保管・預貯金等)の増大
㉓ 重要な要素(経営資源)の把握
㉔ 金融機関等からの融資
㉕ 火災・地震保険(地震拡張担保特約・利益保険等)加入
㉖ 所有資産(社屋・機械設備等)の点検
3.企業ヒアリング結果
企業調査では、製造業、流通業を中心に10 社に対してヒアリングを行った。BCPの策定や建物を建設する際の工夫等が事前の備えとして役になったという意見、発災後の従業員とその家族の安否確認や情報伝達・共有の重要性を訴える等の意見があった。このヒアリングの概要は以下の通りである。
(1) 発災時に役立った事前の備え
①過去の被災経験も踏まえたBCPを策定していたので、発災後すぐに動けた。
② 熊本以外の事業所での被災経験から得た教訓や、日奈久断層等の存在から予想される地震に備え、設計段階から建物の耐震性の強化を行っていたので、被害を抑えられた。
③4月14日の地震時に生産を止めていた効果もあり、4月16日の地震でも致命的な設備の破損はなかった。
④ 情報伝達・指示命令系統について、平常時から通信設備等を設置し、そこで途切れることなく本社等との連絡を行っていた。
⑤ 24時間営業の全国の店舗の稼働状況をリアルタイムで把握できるシステムを構築しており、事態の深刻さを発災直後に知ることができた。
⑥ 情報システムをシンクライアントにしており、事務所が立入禁止になっても通常業務が行えた。(発災時の対応)
⑦ どの企業も、最初の段階で従業員の安否確認に注力していた。
⑧ 従業員に対する経営層のメッセージの発信や生活再建支援等を行っている企業が多い。
⑨ 自らも被災者である地元採用職員の事業所復旧にかける熱意や自主性に頭が下がった。
⑩ 派遣技術者による迅速な建物診断による発災直後の建物使用可否の判明、支援物資・復旧資機材の手配等、本社の指揮のもとグループ企業全体による支援が早期の復旧につながった。
⑪ グループ内の支援態勢としては、熊本経験者・東日本大震災経験者を集めた。
⑫ グループ内の従業員による、休暇取得促進等の交代態勢の整備により、従業員の目立った体調不良はなかった。
⑬ 被害が大きく、早急に供給が必要な製品のためには、代替拠点の活用が必須だった。
⑭ あらゆる同業他社に、すぐに購入・納入できない設備部品を貸してもらうよう依頼した。
⑮ 流通事業者では、グループ内の物資調達のプロが活躍し、自治体からの発注を受けて物資の供給を行えた。その際、グループ内の被災経験のある事業所から、供給物資の伝票や明細の作成・保存等の支援を受け、平常業務に戻ってからの精算を円滑に行えた。
⑯ 弁当等の納入を、熊本に近いA工場での製品を熊本へ、熊本へ送ったことによるA工場の通常営業の不足分を隣の地域のB工場が補うというバックアップ態勢ができていた。
⑰ 食料・日用品の販売を一日でも早く始めることが被災者支援につながるが、店舗の被害によって屋外仮設営業、一部店舗再開等の営業形式が異なるためケース・バイ・ケースでレジ精算の方法を変えた。
⑱ 通行可能な道路情報について、従業員が通ることのできた道路を社内で情報共有した。
⑲ 電源が早期に復旧したことやスマホの通話が可能だったことが早期復旧につながった。
⑳ 下請けは零細企業が多く、取引先が資金ショートにならないよう経営を管理した。
㉑ 地域住民へ備蓄物資を提供した。
(2) 今後の取組
・従業員に大きな被害がなかったことが早期復旧につながったため、人命第一に据えたBCP等の計画の見直し。
・熊本地震の被災事例集の作成・周知。
・設備の地震による移動に備えて壁からの離隔距離をとるなど、設備のレイアウトの見直し。
・建物の屋内や設備の被害を立ち入らずに把握できるように、センサー類の設置。
・被災時の営業形式のバリエーションに即応できるシステム改修。
・事務所に立入ができない場合に備え、顧客の設備の保守ツール等の分散保管。
・自社の他地域の拠点の拡充や同業他社との協力関係の密接化。
・建物を地域の避難所として開放するなど、より一層の地域との連携。
・地域で貢献している従業員が設立したボランティア団体への支援。
(3)会社機能が地震前の水準までおおむね回復したのはいつ頃ですか。(単一回答)
全体では「地震後1 週間以内」が27.6%、「平成28 年5 月~6 月頃」が25.7%、「地震後1 週間超~平成28 年4 月頃」が18.1%となっている。
被災地域の企業のうち何らかの被害を受けた企業(営業を再開できていない企業を除く)においては、取引のある企業と比較して会社機能が回復するまでに時間を要している。
(4)会社機能が地震前の水準に回復するために要した復旧費用はどれくらいでしたか。(設備の増強など地震前以上の水準に要した費用部分は除く)(単一回答)
全体では「100 万円未満」が28.3%、「100 万円以上500 万円未満」が15.5%、「1,000 万円以上5,000万円未満」が15.2%となっている。
売上高が減少した要因は何ですか。(複数回答)
全体では「販売先の被災」が43.0%、「自社の被災(事業は停止せず)」が25.3%、「物流の途絶」が19.4%となっている。
4.今回の熊本地震に関する貴社の対策についてお伺いします。(複数回答)
(1)地震前に既に実施していたもの
全体では「火災・地震保険(地震拡張担保特約・利益保険等)加入」が59.2%、「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、買増し」が49.2%、「避難訓練の開始・見直し」が47.9%となっている。企業規模別では規模が大きいほど、講じていた対策が多くなっている。
① 火災・地震保険(地震拡張担保特約・利益保険等)加入
② 備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、買増し避難訓練の開始・見直し
③ 所有資産(社屋・機械設備等)の点検
④ 災害対応担当責任者の決定、災害対応チーム創設
⑤ 非常用発電機の購入
⑥ 安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入
⑦ 重要な要素(経営資源)の把握
⑧ 所有資産の耐震・免震工事・耐震固定
⑨ 防災用の無線機や災害時優先電話(衛星電話)導入
⑩ 内部留保(現金等保管・貯金等)の増大
⑪ BCP の見直し
⑫ 本社機能・営業所等の代替施設・建屋の確保または準備
⑬ 防災関連セミナーの定期受講・防災関連資格(防災士等)取得の推奨または社員への補助制度の創設
⑭ 代替仕入先の確保
⑮ 協定(災害発生時の代替供給や資金援助等)締結
⑯ クロストレーニング(代替要員の事前育成)
⑰ 生産設備の代替施設・建屋の確保または準備
⑱ 代替販売先の開拓・情報収集等
⑲ ISO等のBCP認定取得
⑳ 在庫増に備えた倉庫や土地等の購入・借用
㉑店舗・工場等の他県または海外への移転
㉒国土強靭化貢献団体認証の取得
㉓その他
(2)地震の際に有効であったもの
「地震前に既に実施していたもの」で回答したもののうち、有効であったものについて、全体では「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、買増し」が43.7%、「安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入」が35.7%、「災害対応担当責任者の決定、災害対応チーム創設」が35.2%となっている。被災地域の企業においては「火災・地震保険(地震拡張担保特約・利益保険等)加入」の回答比率が36.0%で最も高くなっている。
・地震後に新たに実施したもの
「地震前に既に実施していたもの」以外で地震後新たに実施したものについて、全体では「所有資産(社屋・機械設備等)の点検」が35.8%、「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入、買増し」が30.7%、「金融機関等からの融資」が25.5%となっている。
被災地域の企業においてもほぼ同様の傾向となっている。