労働判例情報

1.製造業

安全配慮義務違反による損害賠償
判決日平成20年4月28日(大阪地裁)
判決認容額約1億9,870万円
発症日・原告Aの年齢平成13年4月13日・26歳
(主な争点)

本件発症と本件業務の因果関係、 安全配慮義務違反の有無
(事案の概要)

金属製品の製造・販売を行っている会社に勤務していた原告Aが、人事異動直後、勤務中に小脳出血・水頭症を発症し手術を受けたが、継続して半昏睡状態となり、体を自由に動かすことができない状態となったのは、過重な業務に従事した結果であるとして、勤務会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案です。

(結論)

1)異動後間もない段階で慣れない業務を担当しており、発症までの12日間における時間外労働時間は合計約61時間、1か月(30日)あたりに換算すると約152時間30分に相当する状況であった。また12日間に1日も休日を取ることなく連続して業務に従事しており、原告Aの業務は
質的・量的に著しく過重であったというべきであり、本件発症との間で相当因果関係を認めるこ
とができるとした。
2)勤務会社は原告Aの業務が,労働者の心身の健康を損なうに足るだけ過重なものであることを十分認識できたはずであるから,業務の負担を軽減すべきであったとした。
(本件のポイント)

●後遺障害等級1級の場合は、介護費用等により死亡時より高額な賠償事例となることが多い
●将来の年金給付分(障害年金)は損害賠償額から控除されず、損害賠償金が高額となった
●人事異動後の慣れない業務や発症までの12日間における休日勤務を含む連続勤務が過重であるとされた


長時間労働からくる従業員の自殺による損害賠償
判決日平成19年10月25日(福岡高裁)
判決認容額約7,430万円
死亡日・故Aの年齢平成14年5月14日・24歳

(事案の概要)

オートバイの部品等の製造・販売会社に勤務していた故Aが、長時間労働が連日続くなか、塗装班のリーダーに昇格。その後自殺したのは、肉体的・心理的に過重な負荷のかかる長時間労働を余儀なくされたことによってうつ病に罹患したためであるとし、業務と自殺との相当因果関係を肯定し
て、勤務会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案です。

(主な争点)

1)本件自殺と本件業務の因果関係 2)安全配慮義務違反の有無
(結論)

本件自殺1か月前の期間に110時間06分、同1か月前から2か月前の期間に118時間06分の時間外労働をしており、過重労働に伴う肉体的・心理的負担や、更にはリーダーへの昇格による心理的負担の増加があり、総合的にみて、故Aには相当程度に強い負荷が掛かっていたということができ、本件自殺と業務との因果関係が認められるとした。
勤務会社は故Aの労働時間や勤務状況などから、健康状態の悪化を招くことは容易に認識できたといえ、予見可能性が認められる。そして、適宜現場の状況や時間外労働・休日労働など勤務時間のチェックをし、さらには、健康状態に留意するなどして、心身に変調を来すことがないように注意すべき義務があったとした。

(本件のポイント)

●長時間労働やリーダーへの昇格、上司の叱責に伴う心理的負担が過重であるとされた
●故Aの変調が表面化してからの経過は急進的であり、専門医の診療を受けることは容易でなかったこと、また自殺の原因について個人的な要因がなかったことから、過失相殺の適用はされなかった
引用 大阪地判平20.4.28 労判970号66頁


職場環境に起因する従業員の自殺による損害賠償
判決日平成12年5月18日(広島地裁)
判決認容額約1億1,111万円
本件自殺と本件業務の因果関係
死亡日・故Aの年齢平成7年9月30日・24歳
(事案の概要)

調味料の製造・販売会社に入社した後に、その子会社に転籍、調味料の製造業務を担当していた故Aが自殺したのは、過酷な作業環境や長時間労働、同僚の確執の問題等の職場環境に起因するうつ病罹患によるものとして、両社に対し安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案です。

(主な争点)

 1)作業環境の安全配慮義務違反による損害賠償 2)安全配慮義務違反の有無
(本件のポイント)

●劣悪な環境下における作業や、リーダーへの昇格、部下指導への悩みがうつ病の原因とされた
●両社の債務関係については、不真正連帯債務の関係にあると解された(不真正連帯債務とは各債務者が全額についての義務を負うが、債務者間に緊密な関係がなく、弁済及びこれと同視し得る事由を除いて、一債務者に生じた事由が他の債務者に影響しないものをいう)
(結論)

1)故Aは夏場では40℃を超えるほどの高温となる環境で慢性疲労の状態に至り、これに加え、リーダーが他の部署へ配転替えになったため、故Aが製造部門のリーダーとして他の二人を指導していたが、期待どおりの働きをしてくれないことから、その打開策について思い悩んだ結果、うつ病に罹患したものと推認するのが相当であるとした。
2)劣悪な作業環境を被告会社が認識することが可能であったこと、製造部門のリーダーとしての故Aの心身の負担を予見することが可能であったこと、故Aの心身の変調を疑い、同僚や家族に対して日常の言動を調査して然るべき対応をすべきであったとし、安全配慮義務を怠った過失があるとした。
引用 広島地判平12.5.18 労判783号15頁

 

作業環境の安全配慮義務違反による損害賠償
判決日平成11年1月18日(千葉地裁)
判決認容額約5,200万円
死亡日・故Aの年齢平成6年10月26日・26歳
(事案の概要)

金属箔を製造する工場で作業中であった故Aが一人で焼鈍炉のピット内に降りた後、ピット内にアルゴンガスが漏れて滞留していたため酸欠死したのは、勤務会社の安全配慮義務違反によるものとして損害賠償責任が認められた事案です。

(主な争点)

1)安全配慮義務違反の有無 2)過失相殺
(結論)

1)工場内で使用されているガスの危険性や酸欠事故の危険性の周知がされていなかったこと、酸欠事故防止のための教育指導、安全管理体制や安全装置の設置、酸欠事故発生の場合の対応措置等がいずれも不十分であったことなどから従業員に対する安全配慮義務を怠った過失が認められるとした。
2)本件は、一人でピット内に降りて作業を行っているうえ、計器類を事前に確認しなかったことが事故の一因となったと考えられるものの、従業員に二人作業体制や計器類の事前確認を徹底するような指導はしておらず、恒常的に一人で作業するような体制がとられていたこと、故Aが入社後六か月しか経過しておらず、酸欠事故が発生する可能性を具体的かつ徹底的に教育指導されていたわけでなかったことなどから、故Aの死亡による損害額の算定に当たって過失相殺をすることは相当でないとした。

(本件のポイント)

●安全教育や措置が十分されていない状況下での事故であり、安全配慮義務を怠ったとされた
引用 千葉地判平11.1.18 労判765号77頁

 

2.建設業

勤務会社と代表取締役の安全配慮義務違反による損害賠償
判決日平成6年9月27日(横浜地裁小田原支部)
判決認容額約1億6,524万円
事故日・原告Aの年齢平成3年2月9日・39歳
(事案の概要)

木材加工販売等を行う会社に勤務していた原告Aがクレーンを運転操作して原木をトラックに積込む作業をしていたところ、ワイヤロープが解けて落下し、原告Aの頚部に当たって頚椎損傷による後遺障害等級1級の障害を負ったのは、勤務会社とその代表取締役の安全配慮義務違反によるものとして損害賠償責任が認められた事案です。
(本件のポイント)

●後遺障害等級1級の場合は、介護費用等により死亡時より高額な賠償事例となることが多い
●将来の年金給付分(障害年金)は損害賠償額から控除されず、損害賠償金が高額となった
●代表者にも会社に安全配慮義務を尽くさせるよう注意すべき義務があるとされた
引用 横浜地小田原支判平6.9.27 労判681号81頁


建築請負業者の安全配慮義務違反による損害賠償
判決日平成8年3月22日(浦和地裁)
判決認容額約3,322万円
事故日・原告Aの年齢平成2年2月5日・36歳
(主な争点)

1)安全配慮義務違反の有無 2)過失相殺

(事案の概要)

建設作業に従事していた原告A(一人親方)が1階屋根から約3メートル下の地面に落下し、脊髄損傷の重傷を負ったのは、建物建築請負業者の安全配慮義務違反によるものとして損害賠償責任が認められた事案です。
(本件のポイント)

●一人親方でも請負業者との間で使用従属関係があるとされた
●作業を禁止していないことにより、安全配慮義務違反が認められた
(結論)

建設現場で作業に必要な外回りの足場が組み立てられておらず、現場監督に電話で確認したところ、朝からみぞれ混じりの雨が降っており、足場が設置される見込がないと回答を受ける。それに対して、原告Aは「晴れ間を見て作業する」と告げ、現場監督は「帰った方がよい」と告げたが、それ以上、作業を制止しなかった。被告は、高所から墜落する危険のあることは予見可能で、墜落を防止するための設備を設置するとともに、設備が設置されていない場合には、高所における作業を禁止するなどの措置を講ずべき義務があったが、作業を禁止せず、漫然と黙認したものであるとした。また、原告Aと被告との関係は実質的な使用従属関係があったというべきであり、原告Aに対し使用者と同様の安全配慮義務を負っていたと解するとした。
原告Aは過去の経験から足場のない状態で作業を行うことが危険であると認識しており、足場がないまま作業を行う必要がなかったと考えられることから作業を控えるべきとされ、原告Aの過失割合を8割とするのが相当とされた。
(結論)

1)勤務会社は、「玉掛けに使用してはならない台付け用のワイヤロープを使用」「行ってはならない一本吊りの方法による玉掛けを行った」「安全荷重を上回る原木の吊り上げ作業を行わせた」「法定資格を有しないものに玉掛け作業をさせた」「法定の教育を受けていない者に移動式クレーンの運転操作を行わせた」などの安全配慮義務違反があるとし、代表者は作業の指揮、監督をしていた者として、勤務会社に安全配慮義務を尽くさせるよう注意すべき義務があるのに、これを怠った結果本件事故が発生したとした。
2)被害者が労災保険等から補償を受けることとなった場合であっても、損害額から控除すべき範囲は、被害者に生じた損害が現実に補てんされたということができる範囲に限られるべきであり、将来支給されることが予定されている労災保険金を控除するのは相当でないとされた。
引用 浦和地判平8.3.22 労判 696号 56頁

 

3.飲食業

長時間労働に対する安全配慮義務違反による損害賠償
引用 鹿児島地判平22.2.16 労判 1004号 77頁
判決日平成22年5月25日(京都地裁)
判決認容額約7,862万円
業務と死亡との相当因果関係の有無
死亡日・故Aの年齢平成19年8月11日・24歳
(主な争点) 

1)従業員の死亡に対する安全配慮義務違反及び不法行為による損害賠償 

2)安全配慮義務違反の有無
(事案の概要)

飲食店に勤務していた故Aが自宅で急性心不全で死亡したのは、長時間労働によるものとして、勤務会社の安全配慮義務違反および取締役の会社法に基づく責任が認められた事案です。
本件のポイント●大規模な会社において会社体制を問題として取締役の個人責任を認めた結論故Aの労働時間は、死亡前の1か月間は時間外労働時間数約103時間で、入社して4ヶ月間毎月80時間を超える長時間の時間外労働であった。また、立ち仕事であったことから肉体的な負担も大きく、心疾患は業務に起因するものとされた。
勤務会社は労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、やむを得ず長時間労働となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。
被告取締役らの責任として、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく、一見して不合理な体制(時間外労働として1か月100時間を6か月にわたって許容する三六協定を締結。基本給の中に、時間外労働80時間分を組み込み。)をとっていたのであり、それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、被告取締役らは、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ、会社法第429条第1項に基づき任務懈怠があったことは明らかであるとした。 
引用 京都地判平22.5.25 判タ1326号196頁

 

超過勤務による会社・代表取締役・常務取締役に対する損害賠償
引用 東京地判平18.4.26 労判930号79頁
判決日平成19年12月14日(熊本地裁)
判決認容額約4,261万円
(主な争点 )業務との相当因果関係の有無 過失相殺がポイントとなる損害賠償

 安全配慮義務違反の有無 Ⅲ 過失相殺
(事案の概要)

トラック運転業務に従事していた原告Aが走行中脳出血を発症し,上下肢機能全廃の後遺症が残存したのは、長時間労働によるものとして勤務会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案です。
(本件のポイント)

●原告Aの持病である高血圧症は、過失相殺の対象とされなかった。
(結論)

原告Aが運転していた積載量10トン以上のトラックの運転は、精神的緊張を伴うものである上、過重労働により、慢性的な身体的疲労状態にあった。現に業務中に本件脳出血を発症していることから、これらの過労等が脳動脈の血管壁の状態に悪影響を与え、破裂に至らしめ、脳出血が生じたと認めるのが相当である。
勤務会社は、業務が過重であったことを容易に認識でき、原告Aが、脳出血等の疾患を発症し、生命・身体に危険が及ぶ可能性があることを予見し得たにもかかわらず、生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務に違反したとした。
勤務会社は原告Aの高血圧症が本件脳出血の発症に影響を及ぼしたとして、過失相殺を主張する。原告Aは健康診断で高血圧症を指摘されていたが、治療は行っていなかった。しかし、高血圧症がどの程度脳出血に寄与したかは明確ではないため過失相殺を適用しないとした。
引用 熊本地判平19.12.14 労判975号39頁

 

長時間労働に対する安全配慮義務違反による損害賠償

判決日平成13年2月19日(大阪地裁)
判決認容額約4,649万円
(主な争点 )

1)業務と死亡との相当因果関係の有無

2)安全配慮義務違反の有無
(事案の概要)

配送トラック運転手であった故Aが、勤務中駐車場に停めていたトラックの運転席で意識不明の状態で倒れ、急性心不全により死亡したのは長時間労働を放置したとして、勤務会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案です。
(本件のポイント)

●故Aの希望により担当業務を変更したが、時期的に遅すぎ、安全配慮義務違反を問われた。
●過重労働の蓄積による慢性的な疲労に精神的ストレスが加わったのが心疾患の原因とされた。
(結論)

自動車の運転は精神的緊張を伴う上、故Aは拘束時間が7年以上にわたり早朝から夕刻まで1日13時間を超え、かつ配送時間の厳守や積み降ろし作業、1ヶ月に3日程度の休日など慢性的な疲労状態であった。その後、故Aの要望により、事故発生の4日前に新業務に変更となり、走行距離、拘束時間ともに短くなったが、新業務になった直後は運転車両や配送方法の変更等もあり、相当の精神的ストレスがあったものと認められる。そのような状況下で、故Aの有していた冠動脈硬化を、自然的経過を超えて急激に著しく促進させたため、急性心筋梗塞により、本件発症に至り、その結果死亡したと認めるのが相当である。
勤務会社は、業務が過重であったことを容易に認識でき、過重な業務が原因となって、故Aが、心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症し、ひいては故Aの生命・身体に危険が及ぶ可能性があることを予見し得たにもかかわらず、健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したとした。
引用 大阪地判平13.2.19

脳・心臓疾患の労災決定が多い業種?

  業種(大分類) 業種(中分類) 支給決定件数
 運輸業、郵便業 道路貨物運送業  82(2)
建設業 総合工事業 16(0)
宿泊業、飲食サービス業 飲食業 15(0)
卸売業、小売業 その他小売業 11(1)
建設業 種別工事業(設備工事業を除く) 9(0)
情報通信業 情報サービス業 9(0)